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インターネッツ

教科書

『トースト絵画』大竹伸朗『見えない音、聴こえない絵』より

まとめ ピカソの絵や一枚のトーストが芸術であるかどうかではなく,人それぞれが何を芸術と捉えるかという核心にたどり着く。 単なるテストトーンを聞いて深く感激してしまったジャーナリストのように,「内側で何かが起きてしまった」ことが重要な基準なの…

『自然を守るということ』森岡正博『環境倫理学』より

まとめ 自然のために自然を守るとは,人間の利益とは無関係に尊い自然を守るということだ。しかし,守られるべき自然は,恣意的な価値判断によって選択されている。 人間のために自然を守るとは,人間の利益になるように自然をコントロールすることだ。利益…

『無常ということ』小林秀雄『現代日本文学大系』より

まとめ 比叡山に行き,ぼんやりと辺りを眺めていると,『一言芳談抄』の中にある文章が心に浮かび,しみわたった。この経験は一体なんだったのだろうか。今はもう体感できない。美しさが消えたのか,それとも美しさをつかむ心身が消えてしまったのか。 死ん…

『神話する身体』安田登より

まとめ 能の稽古の基本は型を真似することで,方法などは特にない。師伝の通りできると,客はなんとも言えない感情に心動かされる。それはなぜか。個人の経験を超越した「思い」が立ち上がってくるからだ。 数千年前に古人は「型」の中に「思い」や「心(シ…

『ラップトップ抱えた「石器人」』長谷川眞里子

この文章は,2003年4月27日付の「朝日新聞」に発表されたものである。 まとめ これまでうまくいって安全だと思われているものは,次も安全だと誤謬されやすい。 科学技術が進んだ時代に生きる人類の脳は,この5万年において全く進化していない。現在の技術や…

『リスク社会とその希望』大澤真幸『不可能性の時代』より

まとめ リスクの例として挙げられるのは,地球温暖化や都市近郊でのテロなど。もたらす損害は計り知れないほど大きいが,起こる確率は極めて小さい。 リスクを回避するときに,中庸の選択は無意味となる。民主主義は,多数の意見を中庸として採用するので,…

『貨幣共同体』岩井克人『貨幣論』より

まとめ 貨幣それ自体にモノとしての価値は全くない。しかし,貨幣を使う共同体の中では,貨幣を使うことができる。貨幣共同体を成立させているのは,人々が貨幣を貨幣として使っているという事実のみである。 貨幣がモノと交換可能であり,貨幣が貨幣として…

『ポスト・プライバシー』阪本俊生より

まとめ プライバシーへの関心は高まってきている。一方で,プライバシー意識が低下してきたという指摘もある。 プライバシー意識が変わりつつある。かつて他人の視線は不気味なものだったが,今日のような個人社会では逆に他者に見られたい欲求すらある。 人…

『死と向き合う』清水哲郎

この文章は「思想」(2001年第ニ号)に発表されたもので,本文は同誌によった。 まとめ 死に対する希望はどこにあるか。死へと向かう目下の生それ自体にある。 希望を最後まで持つとは,現実への肯定的な姿勢を最後まで保つということ。 肯定的な姿勢の源は…

『ことばへの問い』熊野純彦

この文章は廣松渉著『もの・こと・ことば』に「解説」として収められている。 まとめ ことばで自然を表し尽くすことなどできない。ことばが存在しない世界でも,葉のみずみずしさや森の沈黙は存在するのか。いや存在しない。さまざまな自然の音は人間に対し…

『ふわふわ』鷲田清一『「ぐずぐず」の理由』より

まとめ 「ふわふわ」は,重力からの解放であると同時に,着地していない不安でもある。 現代人は,「ふわふわ」というよりも,「浮いている」「流されている」という感じだ。自分がここにいる理由が見つからない。自由な意思があるようで選ばされている。 い…

『道について』小池昌代『黒雲の下で卵をあたためる』より

まとめ 知っている道を歩くときは,その道がもうひとつの道とどのようにつながっているか知っている。 知らない道を歩いて行くと知っている道に出る。知っている道を伸ばしていけば,知らない道に出る。 全ての道は二度目に通るとき,はじめての道から,知っ…

『絵画の二十世紀』前田英樹より

まとめ 鏡に映る自分の顔が,本当の自分だと信じたいが,現実は違う。残酷だが,写真に写る自分が本当の自分なのだ。 写真が登場する以前,絵画は,人の目に映り,写真には写らない景色を絵にしてきた。今,絵画に求められるものは,写真に写る現実ではなく…

『言語が見せる世界』野矢茂樹『語りえぬものを語る』より

まとめ 言語でものを知覚するとき,知覚されるものそれ自体が持つ文脈や背景などは一切無視している。言語で知覚されたものは,概念的なものである。鳥・恋愛を知覚するとき,人は典型的な「鳥」・「恋愛」を知覚している。 現実で起こることは,全て物語の…

『ノスタルジアと「かわいい」』四方田犬彦『「かわいい」論』

まとめ 実際に生起した過去ではなく,理想化された過去を懐かしむ。それがノスタルジアだ。 旅行の際のお土産は,個人の物語を残すために買われる。幼い頃のアルバム写真は,その人の理想化された過去だ。 ノスタルジアの視座で眺められたもろもろの事物は,…

『小説とは何か』三島由紀夫『三島由紀夫全集』より

まとめ 新しい本を読むよりも,むかし感銘を受けた本を再読して,「小説」をそこに豊富に発見することがある。 『遠野物語』の一行。 「(幽霊が)裾にて炭取りにさわりしに,丸き炭取りなればくるくるとまわりたり」 この瞬間,幽霊が単なる主観から生じた…

『「である」ことと「する」こと』丸山眞男『日本の思想』より

まとめ 権利を得た立場に安住していては,権利を失う。権利を行使「する」ことで,権利を維持しなければいけない。 福沢諭吉以後,職業の貧賤は「身分」ではなく「業績」で判断されるように移行している。 政治は「する」ことがもっとも必要な機関だ。政治に…

『思考バイアス』池内了 『疑似科学入門』より

まとめ 神秘的な体験に対する人間の仮説にはバイアスがかかりやすい。 例えば,「関連性の錯誤」がある。目立った二つの事柄をただ目立つという理由で結びつけて考える心的作用のこと。 「関連性の錯誤」に陥らない推論の方法がある。 Aが起こってBが起こっ…

『文学の仕事』-加藤周一『私にとっての二〇世紀』より

まとめ 文学は,人生または社会の目的を定義するのに必要だ。いまは科学技術の時代だが,科学技術は目的のための手段でしかない。 人生の価値を考えるためには,社会の約束事から自らを解放することが第一歩だ。統計的で,抽象的な考え方,つまり普通の,一…

『Not I, not I. . .』中沢新一『純粋な自然の贈与』より

まとめ インディアンには,贈与の文化があった。贈り物をしたり,お返ししたりすることで「贈与の霊」を動かす。贈与は,「もの」と「ひと」の間にきずなを生む。 それとは反対に,売買は分離の力をはらんでいる。貨幣は,無から有をつくりださない。そこで…

『日本文化私観』坂口安吾 『坂口安吾全集』より

まとめ 文学では,美しくさせるための一行があってはならない。「やむべからざる実質」が美を生む。実質の精神が小説の真骨頂であり,あらゆる芸術の大道なのだ。 美しさのための美しさは率直でなく,空虚だ。空虚なものは人の心を打たない。 公園をひっくり…

『異時代人の目』若桑みどり『レット・イット・ビー』より

まとめ 歴史の転換点,特に価値体系が大きく変わるような転換点のときには,歴史が整理されやすい。 記録として残るものはあっても「真実」は残されていかない。一方で芸術は,多義的であるが故に,内面の真実が包み隠されている。 生前評価されなかった芸術…

『アイオワの玉葱』長田弘 『詩人であること』より

まとめ 玉葱を辞書でひいて見ると,英語の辞書と国語の辞書で記述が異なる。英語の辞書は,味覚の特徴をあげ,国語の辞書は形体の特徴をあげている。 このような母語による差異を,私たちはどれだけ認識しているだろうか。同じ人間という考えにあまえて,母…

『情報の彫刻』原研哉『デザインのデザイン』より

まとめ 電子メディアが生まれた今,書籍の役割とは何か。メディアの主役を降りた紙は,再び本来の,適度な重さ・手触りを持つ「物質」として魅力的になったのではないか。 情報を右から左へと移すのではなく,情報を慈しむという魅力が書籍にはある。 電子メ…

『つながりと秩序』北田暁大『増補 広告都市・東京ーその誕生と死』

まとめ 都市空間において,ケータイを見ることで,「あなたとコミュニケーションするつもりはありませんよ。」と示すことができる。ケータイは偶然の接続を避けるユートピアとして機能するはずである。 しかしケータイは,秩序から解放してくれるどころか,…

『物語るという欲望』内田樹『映画の構造分析』より

まとめ 映画を見る時,ストーリーとは直接関係がないような偶然映った要素を無理やり意味付けて解釈したくなる。これは物語る欲望だ。 話と話の前後に脈絡がないもの、脈絡が欠けているものを見た時、人はすき間を埋めたがる。正しい解釈によってではなく個…

『ワァンタジー・ワールドの誕生』 今福龍太

まとめ 観光は、幻想によって創られる。原始的な世界を見つめているのは今や観光だけだ。 人々がメディアの中で知った観光地のイメージ・幻想を観光地で消費する。新しい発見はそこにはなく、写真を撮り・お土産を買うことで観光地を消費する。 原始的な観光…

『科学・技術と生活空間』 村上陽一郎『文化としての科学/技術』

まとめ 文明化は、自然を人間用に変えてしまう行為だ。自然を人間用に改造した結果生まれるのが「文明」。また、自然を改造していくために必要な道具を技術と言うようになった。 他人に迷惑をかけない限りは何を望んでもいい風潮が生まれた。人々の欲望は無…

『寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか』

タイトルは渡辺一夫による文章によった。 寛容のあり方を考えさせられたのでメモ。 不寛容な人間に対して,寛容になるべきか。 東浩紀を引用すると、 『二十世紀後半の人文思想は他者への寛容を積極的に説いてきた。〜〜他者への寛容は確かに重要だが、しか…

夏目漱石 夢十夜 第三夜の解釈

現代文の授業で取り上げられた、 夏目漱石の『夢十夜』第三夜。 解釈が面白かったので紹介します。 夢十夜とは 話の流れ 解釈 田んぼと森の対比その一、現在と過去。 田んぼは文明化の象徴 文明化について 分かれ道=文明開化 「右」が示すもの 田んぼと森の…